近年、ご遺骨を粉末状の遺灰にして海や川、山などの自然に返して埋葬する「自然葬」を行う人が増えています。自然葬には、海や山へ遺灰の一部を撒く「散骨」や、墓標として墓石の代わりに樹木を植えて埋葬する「樹木葬」などさまざまな形態があります。
「散骨」などの自然葬が注目されるようになったのは、著名人が希望したり、映画などで取り上げられることなどが考えられます。また、家族構成の変化などから従来のようにお墓を購入し、維持することを選ばない人が増えたことも理由のひとつでしょう。さらに、死後は自然に還りたいという想いから希望する人も増えているようです。
さまざまな「供養のかたち」が生まれてきている昨今、新しい供養のかたちである散骨とはいったいどのようなものなのでしょうか?なぜ多くの人が散骨を希望するようになったのでしょうか?本記事では、選ばれる理由と気になる疑問点を解説します。
散骨とは?
「散骨」とは、故人の遺骨を粉末にして、山や海などへ撒くことをいいます。「自然葬」のひとつで、終活が広まってきた昨今、耳にすることも増えてきました。遺骨を撒く場所によって「海洋散骨」などとも呼ばれます。
遺体の廃棄や墓地以外への埋葬は違法なのですが、散骨については法務省から「節度をもって葬送の一つとして行われる限りは問題はない」との見解を示されており、葬送の一つの方法として認められています。
とはいえ、陸地では散骨の許可を受けた場所のみに撒くことができます。土地には必ず所有者がいますので、散骨する土地の所有者の許可を取る必要があるためです。さらに自分や親族の所有地であっても、周辺住民などの感情に配慮し、理解を得ておく必要があります。一方、海への散骨は、節度を持った一定のルールに従って行われます。
また、散骨する際は、遺骨をそのままの形で散布せず「遺骨を2ミリ以下に粉砕しなければならない」と法律で定められているため、個人で散骨を行うことは一般的には難しいです。そのため、散骨の扱いのある葬儀社か、散骨専門の業者に依頼する必要があります。
散骨の流れとしては、通常の葬儀を行った後、遺族の日程を合わせたうえで簡単な儀式とともになされることが多いようです。
自然葬ってどんな種類があるの?
自然葬では遺骨をお墓に納めるのではなく、海・川・山・空中などの自然の中に散骨します。どのような種類の自然葬があるのでしょうか?
海洋葬・海洋散骨
遺骨を海に撒く自然葬です。散骨後は墓所の維持管理費などが発生しないことが特長です。
いったん海に散骨してしまうと墓標となるものがないため墓参りが難しくなります。散骨地点を記した証明書を発行してもらうことはできますが、散骨した場所へ行くためには船が必要となってきます。
また、どこでも好きな場所へ海洋散骨ができるわけではありません。周辺の状況も考慮して散骨するエリアを選ぶ必要があり、条例によって海洋散骨のできるエリアを区切っている地域もあります。海洋散骨を行う団体もガイドラインを設けるなどして、節度をもって散骨が行われるよう取り組んでいます。
樹木葬
自然葬の中でも代表的なもののひとつが樹木葬です。墓石の代わりに樹木を目印とする自然葬です。霊園や寺院等が代わりに管理してくれるため、管理の手間がかかりません。墓石をたてないため、費用も抑えることも人気の理由です。
ただし、樹木葬にはカロート(お墓に遺骨を収めるための納骨室)の中に遺骨を埋葬するものもあります。散骨を希望している場合は、埋葬方法や納骨の仕方をきちんと確認しておく必要があります。
空中葬
ヘリコプターやセスナ機などから、遺族が上空で散骨します。環境への配慮から、海の上まで移動し、そこから散骨するのが一般的な方法です。
バルーン葬
空中から散骨する方法ですが、バルーン葬では風船を使い遺灰を空に送ります。
直径が2メートルほどもある大きな風船に遺灰の一部を入れ飛ばします。気圧により風船が破裂して散骨されるという仕組みです。破裂する高度が高いので環境に配慮する必要がありません。ただし、風船の性能上、多くの遺灰を入れることができないため分骨となります。
故人の遺骨を2ヵ所以上に分けて埋葬、供養することをいいます。
宇宙葬
カプセルに入れた遺灰をロケットで打ち上げる自然葬です。
複数のバリエーションがあり、宇宙空間を半永久的に進んでいくものや、再び地球に戻ってくるものなどがあります。打ち上げ機会が少なく、予定された日時に変更が生じやすいなど注意すべき点もあります。
散骨が選ばれる理由
「散骨」を選ぶ理由はさまざまです。それだけ故人やご家族にとっての大切な物語があるといえます。
自然に還りたい
- 海や山が好きだったので、最後は自然に還りたい。
- 人間もすべての生物と同じように自然に戻るのがいい。
- 大自然の中で眠る方が故人らしい。
お墓に入りたくない
- お墓に入るより、散骨の方が明るい感じがする。
- お墓をたてることにより、維持管理等で残された家族に負担をかけたくない。
- 無縁になる心配がない。
墓じまいの選択肢として
- 墓じまい後の遺骨を合祀にしたくない。
- お墓を継いでくれる人がいない。
金銭的負担を軽減したい
- お墓をたてる余裕がない
- お墓にはお金をかけたくない
- 残された家族に負担を残したくない
散骨に関するよくある質問
Q.海洋散骨は法的に問題はありませんか?
法律的な問題はありません。「節度をもって行えば法的には問題ない」というのが、現在の統一された見解です。
散骨やその他自然葬においてよく問題とされた法律は以下の二つでした。
『刑法』第一九〇条 遺骨遺棄等
「死体、遺骨、遺髪又は棺内ニ蔵置シタル物ヲ損壊、遺棄又ハ領得シタル者ハ三年以下の懲役ニ処ス」
『墓地、埋葬に関する法律』第四条 墓地以外の埋葬、火葬場外の火葬の禁止
「埋葬又は焼骨の埋蔵以外の区域にこれを行ってはいけない。」
平成三年、東京の市民団体「葬送の自由をすすめる会」が行った、神奈川県沖で散骨について、マスコミ取材による法務省は「刑法190条の遺骨遺棄罪の規定は、社会風俗としての宗教的感情を保護するのが目的であり、葬送のための祭祀のひとつとして節度をもって行われる限り、遺骨遺棄罪にはあたらない」との見解を示しました。
また、厚生省(当時)も「墓埋法はもともと土葬を対象としていて、遺灰を海や山に撒く葬法は想定しておらず対象外で、自然葬を禁じた規定ではない」と表明しています。
以降、散骨は「刑法の遺骨遺棄罪や墓地埋葬法に反するものではなく、死者を弔う祭祀として国民感情に配慮しつつ相当の節度をもっておこなうならば違法ではない」という法解釈が定着してきました。
法務省の見解における「節度をもって」の解釈について実務や判例の蓄積はありませんが、一般的には次の諸点に注意すべきと考えられています。
- そのままの形で散布しないこと
- お骨とは分からない程度に粉末化(一般的には2mm程度以下)すること
- 他人の所有する土地には散布しないこと、あるいは了解をとること
- 環境問題に配慮すること
- 葬送の目的を明確にすること
規定がないため、散骨業者等が独自のルールで実施しているのが現状です。
従って個人(遺族)が独自に散骨を行う場合でも、特別な手続き(役所への届出や許可・申請等)は一切必要ありません。
但し、北海道長沼町を皮切りに、同じく北海道の七飯町や長野県諏訪市といった地方公共団体では独自の条例で散骨を規制する動きも始まっています。
Q.海洋散骨にはどのような種類がありますか?
大きく分けると、3つの種類があります。
- 代行散骨
もっともシンプルな、業者に遺骨を預けて散骨をしてもらう散骨 - 合同散骨
複数の遺族が同じ船に同乗して行う散骨 - チャーター散骨
一家族で船をチャーターする散骨
Q.散骨は故人が亡くなってから、いつごろ行えばいいですか?
散骨を行う時期に特別な決まりはありません。
一般的には四十九日の法要や、故人の命日などに合わせて日程を決められる方が多いですが、火葬後すぐにという方や、反対に何年もご自宅でご遺骨を保管された後に散骨を希望する方もいらっしゃるというように、ご遺族の事情によってさまざまです。
Q.散骨に適した季節はありますか?
春や秋など、穏やかな気候の時期に希望する方が多いですが、通常、年間を通じて散骨は可能です。
季節ごとに景色も変わります。海洋散骨でいえば、特に冬は海がきれいな時期と言われています。
Q.既にお墓に納骨している遺骨を散骨できますか?
可能ですが、改葬手続きが必要になります。
墓地管理者に納骨証明書を発行してもらい、墓地の所在地の役場で改葬許可証の交付を受けます。その後、交付された改葬許可証を墓地管理者に提示し、手続きを終えます。
Q.遺骨の一部だけを散骨できますか?
一部の遺骨を散骨して、一部はお墓に納骨する、または手元に残すことは可能です。
寺院での供養も問題なくできますし、手元供養などとの併用もできます。
Q.散骨する際に服装に決まりはありますか?
散骨の際の服装に決まりはありません。
海洋散骨の場合、船の上では潮風に当たりますし、床が濡れて滑りやすくなることもあります。そのため大切なセレモニーではありますが、喪服は避けた方がよいでしょう。また靴も滑りにくい、履きなれたものがおすすめです。
散骨という選択肢
「散骨」は、通常の埋葬方法とは大きな違いがあるため、従来までの埋葬方法に親しまれている方にとっては、違和感を覚えることもあるでしょう。散骨を望む方がいるように、従来のお墓に納めたいというお考えもあるでしょう。
「遺骨の一部を散骨する」というように選択肢も豊富にあります。
もっともよいお別れになるよう、ご家族や親族と事前にきちんと話し合い、同意を得ておくことがとても大切です。終活の一環として、今からご自身のお墓について考えてみてはいかかでしょうか?