「改葬」とは、すでに埋葬されている遺体や遺骨を、所定の手続きを踏んで永代供養墓、外墓、納骨壇など別の形態のお墓に移動させることで、いわばお墓の引越しのことをいいます。近い言葉に「墓じまい」がありますが、お墓を撤去して更地に戻すことを墓じまい、現在とは異なるお墓に遺骨を移動させることを改葬と呼びます。
改葬許可証の発行に改葬許可申請書などの書類や手続きが必要なほか、元のお墓で行う供養・抜魂式(魂抜き)、移転先で行う納骨式や開眼供養など、改葬にはいくつかの手順があります。また、土葬から改葬する際には火葬が必要となります。
そこで今回は、改葬の詳しい流れやマナー、改葬が近年急増している理由、改葬にかかる費用などについてご紹介します。
改葬が急増する理由
厚生労働省の「衛生行政報告例」によると、近年、改葬の件数は急増しています。
西暦 | 改葬件数 |
---|---|
2019年 | 124,346 |
2018年 | 115,384 |
2017年 | 104,493 |
2016年 | 97,317 |
2015年 | 91,567 |
2014年 | 83,574 |
(「衛生行政報告例」(厚生労働省)を基に株式会社鎌倉新書にて作成)
この理由には、以下のようなものがあります。
一つ目の理由は、転居などによる引っ越しです。
お墓へのアクセスが悪くなりお参りが困難となり、引っ越し先の近くに改葬をすることがあります。
また、若いころは多少遠方のお墓でもお参りができましたが、年齢とともに車の運転を負担に感じるようになったりと、高齢化によって墓参がしづらくなる場合もあります。このような場合にも、自宅から歩いてお参りできるような場所に改葬するというケースがあります。
生前にお墓を建てていた場合など、一度も納骨しないまま墓地を改葬するということも起こっています。
二つ目の理由は、少子高齢化によるお墓の管理者不足です。お墓の管理をする後継者(子ども)がいないため、高齢でも管理がしやすいよう家の近くに改葬をするという方が増えています。この場合、場所の移動だけでなく、永代供養墓に移すなど、お墓の形態そのものを換えることが多いようです。
改葬のパターンと費用
改葬のパターン
改葬には、さまざまなパターンがあります。
一般的なのは、遺骨だけを移動するパターンです。この場合、もともとの墓石は撤去してしまい、墓石があった土地は更地に戻ります。その後、改葬先で新しい墓石を新設することになります。
次に、遺骨と墓石をまとめて移動するパターンです。もともと墓石があった土地は更地に戻ります。複数の遺骨があった場合に一部だけを移動するというパターンもあります。
最後に、遺骨の一部だけを新しい場所に移動して墓石も新設するパターンです。これを分骨といいます。この場合、もともとの墓石はそのまま残ります。
これらに加え、お墓の形態が変更される場合、異なる手順が必要となります。近年では通常のお墓から永代供養墓への改装も増加しています。
改葬の費用
改葬にかかる費用は、墓地の大きさや地域などにより異なります。
都市部への移転の費用の目安は、平均すると約200万円から300万円程度といわれています。この中にはもともとのお墓の撤去に関わる費用、改葬先のお墓の使用料金、改葬に関わる工事費用などが含まれます。
まず、墓じまいについての目安はおおよそ、次の通りです。
・埋蔵(埋葬)証明発行手数料 400円から1,500円/通
・墓石処分・区画整理費用 10万円から20万円/㎡
・遺骨の取出し費用 4万円前後/人
・墓石運搬費 20万円~80万円 ※移動距離や墓石の大きさにより異なります
・お布施 閉眼法要 5,000円から1万円程度
例えば3㎡の区画で、遺骨が4柱納められているお墓を墓じまいすると、およそ80万円くらいが必要になります。
もし、使用していた墓石をそのまま利用すると、その移動距離や大きさにもよりますが全体で150万円前後。
さらに、このほか新しい区画の永代使用料がかかります。
また新しいお墓を建てるとなると、墓石の運搬費はかかりませんが、新しいお墓の建立の費用が必要になるという具合です。
実際にはお墓の大きさ、位置などによっても変化します。山間部のお墓など重機が使用できないお墓の場合は、墓じまいの作業がすべて手作業となることもあります。このような場合には人件費がさらにかかるといったこともあります。あらかじめ見積もりを確認しておくことをおすすめします。


改葬の手順と流れ
改葬の手順と流れを確認していきましょう。
1. 墓石店に移転先の墓地について相談します。
2. 移転先の候補地を見学し、購入します。
- 墓地代(永代使用料)と管理料を支払います。
- 墓地からは「受入証明書」が発行されます。
- 完成の予定日を決定してから工事についての契約を行います。
- また、元々のお墓の工事開始前には改葬のための供養や抜魂式が行われるのでその手配も行います。
3. 元の墓地(移転元)がある地域の役所から「改葬許可申請書(埋葬されている方1人につき1枚が必要)」の用紙を取得し必要事項を記入します。
4. 元の墓地(移転元)の管理者に「埋葬証明書(納骨証明書)」を発行してもらいます。
また、「改葬許可申請書」を元の墓地(移転元)の管理者に提出し、署名と捺印をしてもらいます。
5. 今の墓地(移転先)がある地域の役所に、捺印済みの「改葬許可申請書」「受入証明書」「埋葬証明書」を提出します。ここで、「改葬許可証」が発行されます。
6. 元のお墓で、閉眼供養やお性根抜きとよばれる魂抜きを行ってから、お墓に納められた遺骨を取り出します。
7. 新しくできたお墓の前で、開眼供養やお性根いれといわれる儀式を行います。
開眼供養が済んだら、移動してきた遺骨を納骨して、お墓の引っ越しは終了です。


改葬によるトラブルと対策
改葬では、さまざまな関係者の事情や気持ちからトラブルが発生することがあります。トラブルを防ぐよう、事前に対策を練っておく必要があります。
寺院とのトラブル
ごく一部ですが、改葬により離檀する際に、寺院から高額な離檀料請求をされるというトラブルが発生しています。
また、お墓の基礎部分が他のお墓とつながっている「連結墓地」の場合、工事そのものが高額になったり、親族との行き違いが生じることがあるので注意が必要です。


改葬を決めることができるのはあくまでも墓地使用権者で、お寺の住職が正当な理由なしに改葬を拒否することはできません。
また、離檀料を請求される場合もありますが、離檀料には法的な根拠はありません。
こうした行き違いが起こらないように、改葬を考え始めた段階で、まず、住職にご相談してみることをおすすめします。何の前触れもなく、いきなり「お墓を移します」と宣言するのは、やはり角が立ちます。改葬したい理由を説明し、住職に理解をしてもらうことが必要です。
そして、実際に改葬をする時には、閉眼法要をお願いし、長年お世話になったお礼としてお布施をお渡ししましょう。

お寺に墓地を返還したのに、永代使用料の一部を返還してもらえません。なぜでしょうか?

永代使用料が返還されることはまずないといって良いでしょう。
墓地の使用規則に「理由の如何を問わず返納はしないものとする」といった記述がなされている場合が多いです。
墓所を更地にしなければならないことから、かえって費用がかさむことになります。
家族とのトラブル
墓地の使用権や、大切なお墓に対する各親族の思いからトラブルが起きることもあります。事前の丁寧な説明や相談が必要です。

親族が改葬を反対しています。承諾なしに改葬をしてもいいのでしょうか?

ただし、親族の賛同を得ておく方が、スムーズに改葬を行うことができるでしょう。永代に渡りお墓は維持していくものですから、皆が納得した気持ちで改葬ができるよう心掛けたいものです。
改葬時、墓石の移動はできる?
多くの霊園が墓石の新設を前提に施設を運営しているため、改葬時に墓石を移動する場合は、移転先の墓地が墓石の持ち込みを受け入れているかどうか確認する必要があります。
もし受け入れに制限がある場合でも、墓石の持ち込みが可能な区画があるか問い合わせましょう。
墓石は重量があるものなので、配送業者に依頼すると思ったよりも費用がかかる場合があります。搬送中に墓石が損傷するというリスクもあるため、事前に複数の業者に相談して見積もりを依頼することをおすすめします。
土葬からの改葬はできる?
土葬から改葬する場合は、遺骨を取り出す前に閉眼法要の供養を行います。取り出した遺骨はさらに洗骨の作業をしてから火葬し、骨壷に収めます。改葬許可証を申請するのと同時に火葬許可証も申請するとスムーズです。
土葬の場合は改葬が一般的な方法と異なるため、専門の業者を探すことが必要です。
覚えておきたい改葬マナー
改葬の際には、開眼供養を行います。お布施は、白の無地封筒か祝儀袋に5,000円から1万円程度を包むのが相場です。表書きには「御入魂御礼」「開眼供要御礼」「御布施」などと書きます。御車料や御膳料も必要な場合は、合計して3万円ほどです。
法要後には、親族に対して食事を振る舞い、感謝の気持ちを表す会食を行います。
改葬後には、日がたたないうちに親族縁者に対して「挨拶状」を送ります。
改葬時の服装は、男女ともに落ち着いた服装が求められます。男性は黒のスーツに控えめな色のネクタイ、女性も落ち着いたスーツで、華やかなアクセサリーなどは避けます。靴も簡素で上品なものを用意します。
墓じまい・お墓の引越し業者をご紹介
墓じまいは完了するまでの手続きも多く、かかる費用も不透明なところが多いのが実態です。まずは、複数の墓じまい業者から見積もりをとることで費用の全体感を把握しましょう。
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