墓石や墓誌、位牌に刻まれた文字などで普段何気なく接している「享年(きょうねん)」という表現。日常会話ではそれほどなじみのある言葉ではありませんが、人生の最後に記される「生きた月日」です。ここでは、そんな「享年」という文字の意味や正しい使い方のほか、類義語それぞれの違いと数え年の数え方なども詳しく紹介しています。ぜひ参考にしてください。
「享年」の意味について
「享年(きょうねん)」とは、この世に生を受けた人が天寿を全うし、亡くなるまでの年数を表した言葉で、人が亡くなった当時の年齢を表しています。
漢字の「享(キョウ・うける)」には「ありがたく受け取る」という意味があることから、「享年」は「天から授かった年月」となります。
例えばある人が100歳で亡くなった場合は、「享年100」のように数字のみで表記するのが特徴です。
過去には年齢をあらわす「享年」に「歳」を重ねるのは間違いとされていましたが、満年齢が標準化している近年ではテレビニュースなどでも「享年100歳でした」と報じられるようになりました。
「享年」と「行年」「没年」の違いとは?
「享年」の類義語には、「没年(ぼつねん)」や「行年(ぎょうねん)」などがあります。
いずれも「故人が亡くなったときの年齢」を表した言葉ですが、厳密には成り立ちや語源の違いのほかにもいくつかの違いがあります。
没年とは
歴史教科書などの記述でも目にすることの多い「没年」は、意味は読んで字のごとく「没した(死亡した)年」のことです。
この場合の「年」には「人が亡くなった年齢」と「亡くなった年次」の2つの意味があります。「没年月日」と言えば故人の命日のことであり、「生没年不祥」は「生まれた年も亡くなった年も分からない」という意味です。
「享年」とは異なり、「没年〇〇歳」のように「歳」を付けて使用します。
行年とは
「行年」という言葉には「娑婆(シャバ)で行(修行)を積んだ年数」という意味があります。
さらに「行」という漢字が時間の経過をあらわすことからも、「この世に生存した年数」を表していることが分かります。
一部には「あの世に行った(逝った)年」とする解釈もありますが、意味としては「亡くなったときの年齢」と同じです。
「享年」「行年」「没年」の使い分け
亡くなったときの年齢を言い表す場合は「享年」か「行年」を用いるのが一般的ですが、どちらを選ぶかについて厳密な決まりがあるわけではなく、お寺や霊園などによっても異なる場合があります。
「享年99(没年97歳)」のような表現を見ることもありますが、これは、墓石や位牌に刻まれる「享年」や「行年」がいずれも「数え年」で記載されている場合で、分かりやすいように満年齢(実年齢)を「没年」で補足しているためです。
一部に「行年は満年齢」との解釈が見られるのは、佛教語大辞典に「(行年は)現在の年齢」と記載されているためでしょう。
娑婆の意味は?
「娑婆」とは、日頃わたしたちが暮らしている俗世間を表す言葉で、もとは「自由のない世界」とか「(極楽浄土に対する)地獄」という意味の仏法用語でした。
俗語としての「シャバ」の起源は古く、江戸時代にまで遡ります。
世知辛い娑婆で鬱屈していた庶民たちが遊郭を「極楽」に例えたのに対して、当時の遊女たちが「(遊郭よりも)自由なところ」という意味で「娑婆」という言葉を使ったのが始まりということです。
「数え年」の計算方法
「数え年」は、人の年齢を数えるときに用いられる古くからの記数法です。現在でもアジア各地で用いられており、日本でも戦前まで日常的に用いられていました。
現在日本で主流となっている「満年齢」は生まれた時点で「0歳」とカウントし、最初の誕生日に1歳を迎えますが、数え年では「0歳」という概念がないのが特徴です。
つまり生まれたときは1歳で、その後は誕生日に関係なくお正月を迎えるたびに歳を重ねます。今でもお正月のことを「年取り」と呼ぶのはその名残です。
インドで6世紀に発見された「ゼロ」の概念は、11世紀にヨーロッパから世界に広がりました。それでも「数え年」が廃れなかった理由のひとつとして、日本人が長生きすることを「長寿」と呼び尊んだことが考えられます。
生まれた時点ですでに1歳であることに加え、年末に生まれてもお正月ごとに年齢が増える数え年と、0歳スタートから丸一年でやっと1歳になる「満年齢」とでは、最大で2歳の開きが生じます。
それだけ早く年を取ることになりますが、「享年」として最後に刻まれる年齢は、満年齢よりも2年長生きしていることになるのです。
まとめ
普段何気なく眺めていることの多い「享年」という表現ですが、調べてみるといろいろな解釈があります。墓碑や位牌の享年が数え年で記述されているかと思えば、ニュースの訃報などでは満年齢で報じられていたり、年齢を表す「歳」も付けたり付けなかったりとさまざまです。
厳密な決まりは存在しません。ご質問やご相談がありましたら、いいお墓までお気軽にお問い合わせください。