窓も飾りもない高い塀、中の様子が全く分からない宗教施設。
小さな入口から入ると景色は一転、ミントグリーンとピンクの憩いの場に人々が集っていました。
ベトナムとヒンドゥー教
ベトナムでは8割を仏教徒が占め、1割がカトリック、そして残り1割の中にヒンドゥー教が含まれます。ヒンドゥーとは宗教の名称としてだけではなく、インド古来の文化、慣習などを統括して指し、まさに「インドという国、インドの人々」という広義があるのです。
ここホーチミン市は1970年代、中国人に次いでインド人が多く、後に殆どのインド人は帰還したのですが、今でも当時の面影を残す数少ない場所があります。
色鮮やかなおとぎの国
1880年に建立されたヒンドゥー教寺院、スリ タンディ ユッタ パニはホーチミン一区にあります。そこは窓も飾りもない高い塀に囲われ、中の様子は全く分かりません。入口は薄暗く、二人がやっと並んで通れるくらい。ヒンドゥー教に馴染みの薄い日本人にとっては入りづらさ、人によっては怖さを感じるかもしれません。
ところが中に入ると景色は一転します。先ずは色鮮やかなミントグリーンとピンクの回廊が廻ります。回廊の壁は大きなゲートになっていて、気持ちのいい風と太陽が差し込んでくるのです。外観から想像していた圧迫感どころか、とてもかわいらしいファンタジーの世界、妖精が出てきそうなおとぎの国です。
さらにここで使われている色とりどりのタイルは日本製なのです。大正時代に流行したエンボスタイルという様式、まさかベトナムのヒンドゥー教寺院で大正ロマンを感じられるとは驚きです。
神秘的なヒンドゥー教の神々
回廊を進むと、ヒンドゥーの象徴的な神様、象の頭と人間の体をしたガネーシャ、トラに乗る戦いの女神ドゥルガー、宇宙を創造したブラフマーなど、多くの神々に出会うことができます。
クリクリした大きな目、二頭身のかわいらしい神様はジャガンナートいう三兄弟です。元々はインドのプリ―という海辺の町の土着神だったのが、ヴィシュヌ神の化身として、ヒンドゥー教に吸収されたということです。
インドの神様にはそれぞれ個性や、神々同士の複雑な人間関係のようなものがあって、インド神話を読むのはとても興味深いです。何といってもインドの神様はエキゾチックで、その表情や動物と一体となっている姿は非常に神秘的です。
そして屋上は必見です。そこには高さ5m、3m四方ほどのモニュメントが建っています。全面には神々びっしりと刻まれていて、その表情や服装は人々を飽きさせません。何故かランニングシャツに短パンの男性や、蝶ネクタイで手を振っている人など、意図は分かりませんが、変わった彫刻が混ざっているのがとても面白いです。
宗教を超えて集う憩いの場
回廊で談笑しているのは、住み込みで働いている方でした。
「私はこのお寺に家族八人で暮らしています。ここにはベトナムとインドのハーフの住職がいますが、毎日いるわけではないから私たちがここの掃除や管理をしてます。この辺りにも少ないですがインドの方が住んでますし、観光で来てくれる人もいますからね。きれいに掃除してお迎えしてるんですよ。
この人は近所の人、ヒンドゥーではなく仏教徒ですよ。休憩時間になるとこうしてご近所の人たちも遊びにきてくれて、皆でおしゃべりするのが楽しみなんです。
この子は私の孫、かわいいでしょ!」