拓本とは、石や金属に描かれた文様や形状などを写し取る方法のことです。拓本という言葉をあまり聞いたことがないという方も、魚拓なら聞いたことがあるのではないでしょうか。魚拓は釣った魚の形を紙に転写したもので、拓本の一種です。拓本の対象物は金属や石、自然物から人工物と多岐にわたり、幅広い用途で利用することができます。
今回は拓本の歴史や種類、用途などをご紹介いたします。
拓本の歴史
東晋の中国は、王義之、王献之らにより行書や楷書が確立されつつある時代でした。そのため後代の書家は書聖と名高い王義之らの作品の複製を求めました。当初は複製の方法としてこれらの書の上に紙を置き、書の輪郭を細い筆でなぞって中を塗りつぶす双鉤填墨という手法がとられていましたが、より効率的な方法として石や木に模写を彫刻し、それを拓本にする手法が使われるようになりました。現存する最古の拓本は敦煌の蔵経洞で発見された唐の太宗の「温泉銘」ですが、拓本の起源はそれ以前だといわれています。この手法が日本に伝来したと考えられています。
日本における最初の採拓例とされるものは虎関師錬が鎌倉時代に書いた「元亨釈書」の中に読むことができます。江戸時代には学芸が盛んになり、それに合わせて墓碑や古い瓦などの拓本が採られるようになりました。また、当時の新聞の役目を担った瓦版は拓本の技術を利用した木版刷りで人気を集めました。
拓本の種類
拓本にはさまざまな種類があり、種類によって精度や見た目が異なります。まず大きく乾拓と湿拓に分けられ、湿拓はさらに直接拓と間接拓に分けることができます。
乾拓
乾拓は紙を水に濡らさずに上から墨などで文様を写し取るものです。
子どものころ、葉っぱやコインを紙の下に入れ、上から鉛筆でこすって模様を転写したことがある人もいるのではないでしょうか。それはこの乾拓という手法になります。乾拓は対象物を水に濡らすことができない場合や対象物が小さい場合にも用いることができます。気軽に拓本できますが、精度はあまり期待できません。
湿拓
湿拓は、対象物に直接墨をつけ紙を押し付けることで文様を写し取る直接拓と、対象物の上に紙を水で濡らして貼り付け、少し乾いたら上から墨で文様を写し取る間接拓とに分かれます。通常、拓本というと間接拓のことを指します。
直接拓は対象物を汚してしまう上に文様などが左右反転して転写されるため、簡易的な魚拓などに使われるようです。
採拓の方法だけでなく、見た目でも呼び名が分けられます。烏の濡れ羽色を思わせるほど黒々と艶がある拓影の拓本を烏金拓、淡墨でごく薄く蝉の翅のように透明感のある拓本を蝉翼拓といいます。
拓本の用途
拓本は、主に観賞・研究などに使われます。
観賞
石や金属に直接彫り込まれた書家の作品などは、拓本によって多くの人の手に渡り観賞されるようになりました。拓本にすることで増す字形の正確さや、白い紙と黒い墨のコントラストが魅力といわれています。また拓本は採拓した人により墨の濃淡や精度に違いが出るため、このことも観賞の対象にされています。
研究
拓本は当時の文化を知ることのできる貴重な学術資料としての一面を持っています。古代のものになると石碑の拓本のみが現存し、石碑そのものがなくなってしまっていることも珍しくはなく、考古学、金石学、書道史学、美術史学などさまざまな分野で必要不可欠な資料となっています。
その他
公の目的のみならず個としての目的でも拓本を楽しむことができます。例えば重い石碑や木版を持ち歩くことは大変ですが、拓本にすれば簡単です。また自然物などの風化してしまうものでも拓本なら保存が効き、いつでも同じ状態で観賞できます。こういった特長を生かして、地域の石碑を拓本にして時代考証をしたり、葉っぱの文様を拓本にして楽しんだりといった使い方も考えられます。
墓石と拓本
墓石や石塔などもまた石碑のひとつですので、拓本することができます。
墓石や石塔は十把一絡げのものではなく、一つひとつ素材の石やデザインなどを工夫して作られたものです。また数百年前に建てられて表面が削げてしまった墓石や石塔は肉眼では読むことができなくても、少しでもくぼみが残っていれば拓本をすることで何が書かれていたかを知る手がかりになります。
拓本に採って眺めることで、お墓を建てた方の思いや建てられた当時の状況を知ることができるかもしれません。
墓石やお墓の拓本は自分のご先祖様を知る上でも重要な手掛かりとなります。
拓本の注意点
墨を用いて文様を写し取るため、対象物が損傷したり汚れたりしないように細心の注意が必要になります。また自分の所有物でないものを拓本したい場合は必ず所有者や管理者の許可を受けなければなりません。天候や気温も採拓に重要な要素となります。
まとめ
拓本の歴史やその種類についてご紹介しました。あまり聞きなじみのない言葉だったかと思いますが、拓本が歴史や文化を知る上で重要なものであることがお分かりいただけたら幸いです。
拓本は専門技術がいるため、施工事例のある専門業者などで行うことが安心ですが、それ以外にもお墓についてお聞きになりたいことがある方はお気軽にお問い合わせください。