梵字とは、古代インド語を表す文字のことで、梵語(サンスクリット語)を書き表す際に用いた文字です。日本には、仏教の経典を書くのに使われた悉曇文字(しったんもじ)として、仏教の伝播にともなって伝えられました。
墓石や位牌に彫ってある文字を見た方もいらっしゃるのではないでしょうか?
今回は、梵字とはどのような歴史をもつ文字で、どのような意味で使われているのかなどについてご紹介します。
梵字の歴史
古い時代のインドには、もともと文字がなく、ものごとはすべて口承で伝えられてきました。ある時期になって、言葉を書き写す必要が出てきていくつかの文字が生まれたのですが、その一系統であるブラーフミー文字を漢字で表記したものが「梵字」です。
ブラーフミーは、ブラフマー(梵天)が創造した文字を意味します。
そのブラフマー(梵天)とは、仏教の守護神であり、古代インド地方のヒンドゥー教の神が仏教に取り入れたものです。古代インドの言語であるサンスクリット語は「梵語」と漢字表記されますが、梵語はブラフマー(梵天)が起源と伝承されています。その梵語を書き写す文字ということで梵字となったともいわれています。
梵字と日本のかかわり
日本での梵字とは、仏教のお寺などに伝わってきた悉曇文字を指します。日本で悉曇文字と呼ばれるものは、6世紀ごろ中央アジアで生まれた文字の変種が、奈良時代に仏教とともに中国を経由して伝来したものです。平安時代の初めには、空海らがインドから中国に伝わった多くの経典類を日本に持ち帰りましたが、その中に悉曇文字で書かれたものが含まれていました。
そして、空海らが学んだ密教の発展とともに悉曇学(サンスクリット学)が発展し、悉曇文字は日本語の五十音図の成立にもかかわったといわれています。さらに梵字は民間にも広まり、日本独自の文化として発達し現代にも生き延びています。
悉曇文字と種子(しゅじ)
日本に仏教とともに伝わった悉曇文字は、漢字とも異なり難解であるために、当初は、意味はわからないものの、文字自体が仏教にかかわる神秘的なものとみなされていただけでした。天平時代には、遣唐使や、鑑真ら梵語や悉曇文字に精通した唐僧のおかげで徐々に広がっていきます。日本に渡来した唐僧やインドの僧が、日本人僧に対して梵語や悉曇文字の講義を行うこともありました。
平安時代には、最澄、空海らが興した天台宗と真言宗を中心とする密教の流れの中で、悉曇文字には特別の意味が与えられるようになります。密教においては、仏を象徴する悉曇文字で表記する一音節の呪文のことを種子といいます。そのため、文字はただの記号ではなく、字そのものが仏だと考えられています。
仏を表す悉曇文字は、基本となる親である字に、点画や線を付け加えることでいろいろな字(仏)が生まれるとの考えから、植物の種にたとえて種子というわけです。
例えば、大日如来や阿弥陀如来などの仏にはそれぞれを表す梵字があります。また、仏だけでなく、干支もそれぞれを表す梵字をもっています。
梵字の使われ方
梵字は、仏教とのかかわりが深いため、お寺などで見かけることが多いです。大きなお寺にいくと、下から方形・円形・三角形・半月形・宝珠形の5つの石材が重なった五輪塔を見かけることがあります。五輪塔は、平安中期から使われてきた供養塔ですが、その多くに、仏教の五大要素である地、水、火、風、空にあたる梵字が彫られています。
また、お墓やお位牌にも梵字が見られます。
お墓に彫られた梵字の意味
お寺にお墓参りにいくと「○○家の墓」などと彫られていますが、その上に梵字が刻まれている場合があります。梵字については、各宗派や地域などによって異なった考え方をもっている可能性があるので、梵字を刻んだほうがよいか迷った際には、檀家になっているお寺やお墓を作ろうと思っている施設などに相談するとよいでしょう。
ちなみに以下は、宗派と梵字の関係についての例です。
天台宗
大日如来を表す文字か、阿弥陀如来を表す文字が使われます。
真言宗
大日如来を表す文字が使われます。
浄土真宗
梵字を使うことはありません。「南無阿弥陀仏」などと刻むことが多いようです。
位牌に彫られた梵字の意味
お位牌にも梵字が彫られているのを見かけることがあるので、お位牌を作ることになったときに、梵字を入れたほうがいいのかどうか迷う方もいらっしゃると思います。
梵字を彫る場合は、戒名の頭に彫ります。梵字は宗派によって定められており、さらに梵字を刻むところと、ほとんど刻まないところがあります。お位牌に刻む梵字についても、檀家になっているお寺の僧侶などに相談してください。
まとめ
日本で目にする梵字は、仏や仏教関連の言葉を表しているということがおわかりいただけたでしょうか。
仏に守護してもらいたいとの思いで、お守りやファッションとして取り入れる人も多くいます。また、お墓やお位牌に梵字を刻むかどうかについては、宗派や地域によって異なることが多いです。これは菩提寺などに相談するのがよいですが、もし梵字のことなども含めて、お墓全般について相談したいことがある場合は、お気軽にお問い合わせください。