京都府宇治市の古刹「萬福寺(万福寺、まんぷくじ)」は、江戸時代初期に建立された寺院で黄檗宗の大本山です。
江戸時代に始まった黄檗宗は、曹洞宗・臨済宗と並ぶ日本三禅宗の一つですが、建物や仏像、儀式や作法など、当時の中国風の様式が色濃く残っており、宇治の萬福寺も異国情緒あふれるお寺です。ここでは、そんな萬福寺の歴史や見どころのほか、お墓や永代供養についてご紹介します。
萬福寺の歴史
萬福寺(万福寺)は、京都府宇治市にある黄檗宗大本山の寺院で、山号は黄檗山(おうばくさん)、開山は隠元隆琦(いんげんりゅうき)、本尊は釈迦如来となっています。
1661年(寛文元年)、中国の臨済宗の高僧だった隠元隆琦を開山に迎え、江戸幕府第4代将軍徳川家綱の援助で京都府宇治市に建立されました。その後、隠元に端を発する一派は「黄檗宗」と名を変え、日本の三大禅宗の一つとして現在に至ります。
黄檗宗大本山である萬福寺ですが、その建築や仏像、儀式作法から精進料理などは中国様式(明時代末期頃の様式)で作られ、境内は日本の多くの寺院とは異なった空間を形成しています。
精進料理は「普茶料理(ふちゃりょうり)」と呼ばれ、植物油を多く使い、大皿に盛って取り分けて食べるのが特色です。また、萬福寺は煎茶道の祖・売茶翁ゆかりの寺としても知られています。
萬福寺の建築・伽藍
萬福寺の建築はアーチ形の天井、円形の窓など中国の明朝末期から清朝初期の様式の影響を色濃く残しているのが特徴で、紅葉の季節の眺めは独特な感覚を覚えるものです。
萬福寺の伽藍は左右対称に配置されており、全体は西側を向いて乱れなく建てられています。
広大な境内に総門、三門、天王殿、大雄宝殿、法堂が西から東に直線状に並んでおり、総門から向かって右側の南側には鐘楼、伽藍堂、斎堂、左側の北側には鼓楼、祖師堂、禅堂が左右対称に配置されています。法堂の左右には、南側に東方丈と黄龍閣(大庫裏)、北側に西方丈と慈光堂(祀堂)があり、これらすべての建物は屋根付きの回廊で結ばれています。また、法堂の裏の一段高い位置には「威徳殿」があり、そこでは徳川歴代将軍を祀っています。
上記で紹介した16棟は、重要文化財に指定されており、本堂にあたる「大雄宝殿」には本尊の釈迦如来座像と十八羅漢像が安置されています。
斎堂の前に吊り下げられている巨大な木製の魚は、食事や法要の時刻を叩いて知らせる「開梛(かいぱん)」または「魚梛(ぎょはん)」と呼ばれる法具で、木魚の原型とされています。
明時代の中国の作法を今に継承
黄檗宗では、日本に伝わった江戸時代当時の中国(明朝)のお経や法具を今も忠実に継承しています。
お経は中国語の「唐音」で詠まれており、一般的によく詠まれる般若心経などのお経もまったく違ったものに聞こえます。
また4拍子のリズムで節のついたお経を歌のように詠んでいく「梵唄(ぼんばい)」という独特のお経もあります。法要では鐘や太鼓が合わせられ、まるで音楽を演奏するように読経が行われます。
インゲンマメの由来
隠元の来日と萬福寺の開創によって、新しい禅のほかにも、さまざまな中国文化が日本にもたらされました。
日本の食卓にも馴染みの深いインゲンマメは、隠元が1654年に日本に持ち込んだとされています。そのほかスイカ、レンコン、孟宗竹(モウソウチク)を日本に伝えたり、日本で煎茶道を開祖したのも隠元とされています。
萬福寺の見どころ
以下では、萬福寺の見どころを紹介します。
萬福寺の拝観料は、大人・大学生・高校生は500円、中学生・小学生は300円です。電車で行く場合、JR奈良線・京阪宇治線の「黄檗駅」から徒歩6分の場所にあります。車の場合は、京滋バイパス宇治西ICから約10分、京滋バイパス宇治東ICから約5分です。駐車場は普通車1台90分500円、バスは1日2,000円となっています。
中国風の精進料理「普茶料理」
萬福寺では隠元が中国から伝えた精進料理「普茶料理」を予約制で楽しむことができます。
「普茶」とは「普く(あまねく)大衆と茶を供にする」という意味とされ、法要や仏事の終了後に囲む食事を指します。胡麻油で炒めたり揚げたりした濃厚な味で、日本で油を使った料理が広まるきっかけにもなっています。
萬福寺の縁日「ほていまつり」
中国では弥勒菩薩の化身として布袋尊が信仰されており、萬福寺でも天王殿に布袋像が祀られています。
その布袋尊の縁日にあたる毎月8日には萬福寺で「ほていまつり」が開催されます(2月と8月は除く)。ほていまつりの「手作り市」はプロアマを問わずハンドメイドを出品することも可能で、お茶席や音楽演奏などの催しも行われます。なお、ほていまつりの入山は無料です。
御朱印
萬福寺の朱印は開梛をかたどったデザインなどユニークなものがあり、オリジナルの御朱印帳もあります。
《墓所案内》大本山萬福寺 黄檗霊園
黄檗宗大本山萬福寺の境内北側にある墓地です。苑内は広い参道で見晴らしがよく、愛宕山や比叡山を眺めることができます。
在来仏教なら宗派を問わず利用可能で、永代使用料は1区画50万円からとなっています。
《墓所案内》大本山萬福寺 メモリーガーデン
黄檗宗大本山萬福寺の境内東側、丘の上にある公園墓地で、在来仏教の方なら宗派に関係なく利用できます。「永代供養墓」「永代供養碑」「樹木葬」など新しいスタイルの供養を行っており、お墓の継承者が不在でも萬福寺に供養を引き継いでもらうことができます。永代供養墓78万円から、樹木葬35万円からとなっています。
《墓所案内》萬福寺塔頭 宝蔵院墓地
宝蔵院は、黄檗宗大本山萬福寺の塔頭(たっちゅう、山内寺院のこと)の一つで、仏教経典の集大成「一切経(大蔵経)」を日本で初めて刊行した鉄眼道光が1669年(寛文9年)に建立しました。鉄眼の版木は宝蔵院で重要文化財として保管されており、書体の明朝体はこの版木が起源とされています。
墓地は、在来仏教であれば宗派を問わず利用でき、1区画の永代使用料は50万円からです。
《墓所案内》萬福寺塔頭 宝善院墓地
宝善院は、黄檗宗大本山萬福寺の塔頭の一つで、墓地には一般墓のほか、継承者が不在でも宝善院に供養を引き継いでもらうことができる個別永代供養墓、合祀永代供養墓があります。
在来仏教であれば宗派を問わず使用が可能です。一般墓所の永代使用料が1区画50万円から、個別永代供養墓が90万円からです。
《墓所案内》萬福寺末寺 天照山万福寺
天照山万福寺は、黄檗山萬福寺を本山とする寺院で、大阪大学豊中キャンパス近くにあります。阪急宝塚線「石橋駅」北口から徒歩7分、大阪モノレール「柴原駅」から徒歩10分です。駐車場も完備されています。
境内には通常の墓地のほか、ガーデン式墓地やクリスタル墓地など現代風のお墓もあります。在来仏教の方なら宗派を問わず利用できます。永代使用料は一般のお墓で1区画60万円~、クリスタル墓地は20万円~、樹木葬45万円~です。
まとめ
黄檗宗大本山「萬福寺」は中国風の様式で建てられた異国情緒あふれるお寺で、他のお寺とは一味違った、独特な感覚をもたらしてくれる京都・宇治の穴場スポットといえます。
また、萬福寺から2駅ほど足を伸ばせば世界遺産の「平等院鳳凰堂」や「宇治上神社」もあります。名産の宇治茶を楽しみながら古都を満喫してみてはいかがでしょうか。