日本で一番美しい墓所風景
品川駅から京浜急行線とバスとを乗り継いでおよそ1時間半。バス停からさらに10分程歩いた三浦半島突端にある三浦霊園に、元X JAPANのhideの墓がある。
様々な芸能人の墓にこれまで参ってきたが、hideの墓以上に美しい花々、写真、小物に囲まれている墓を見たことが無い。逝去して20年経った現在でも、おそらくファンは、毎日、代わる代わるその場所を訪れ、hideに色々なことを話しかけ、hideが喜ぶように墓を美しく保っているのであろう。死者との対話によって、それぞれが日々の生き方を律し、そのことに誇りを持っているファンの姿は日本の精神文化の美しい伝統を踏襲しているのではないだろうか。
ファンの温かな心遣い
X JAPANは言わずと知れた1980年代から1990年代にかけて疾走したビジュアル系ロックバンドであるが、hideはギターを担当。ところが、1997年にバンドが解散した直後の、翌年5月にhideは突然の死を迎える。hideの葬儀は築地本願寺で行われたが有名芸能人史上最高の約5万人の参列者を集めた。
中には、取り乱してhideが乗った霊柩車に飛びつこうとするファンがいたものの、全体としては、ビジュアル系バンドファン特有の派手目の出で立ちとは裏腹に、驚くほどに整然とし、礼儀正しく、ゴミ等はほとんど残っていなかったという。それは、旅立つhideを逆に悲しませないようにと配慮したファンの温かな心遣いの賜物であったということは今でも語り草になっている。
三島由紀夫が唱えた若者像をhideのファンが体現
かつて三島由紀夫が「若きサムライのために」というエッセイの中でこう記している。「私の言いたいことは、口に日本文化や日本的伝統を軽蔑しながら、お茶漬の味とは縁の切れない、そういう中途半端な日本人はもう沢山だということであり、日本の未来の若者にのぞむことはハンバーガーをパクつきながら、日本のユニークな精神的価値を、おのれの誇りとしてくれることである」。
私は、三島が望んだ若者の姿を、hideの墓を守り続けるファンに見出せるような気がするのだ。