境内には6,840体もの仏像が安置され、16世紀の建立当時の希少な姿を保つお寺。
そこで三年間も絵を描き続ける男性が、ここはラオスの象徴だとお話ししてくれました。
16世紀の建立当時の姿で再建
ラオスは米国誌アンケートの「世界でいちばん行きたい国」にも選ばれ、その目的は活動的に動き回るのではなく、古都をゆっくりと楽しむスタイルがおすすめとされています。実際にラオスに行くと、多くの欧米の方を見かけますが、どちらかというと、若い方より中高年の方が多く、家族や友人同士でゆっくりとお寺を廻っている姿を目にします。
このラオスの過ごし方にとてもふさわしいお寺が、首都ビエンチャンにあるワット・シーサケットです。
東南アジアに多い、煌びやかさはなく、特徴的な黒塗りの屋根と、床のレンガが落ち着いた雰囲気を出しています。観光客で溢れていることもありませんので、ここならゆっくりと穏やかな時間を過ごせることでしょう。
ワット・シーサケットは、首都の中心部にセーターティラート王により建立されました。ところがラオスの多くの寺院が同様なのですが、この寺も18世紀以降の度重なる戦乱に巻き込まれ、破壊された歴史があります。ラオスは部族同士や隣国との争いから、歴史的な建造物の多くを失っているのです。そしてここは1818年に再建されたのですが、その時、16世紀の建立当時の姿で建てたことが、非常に希少で価値があるのです。
6,840体もの仏像が安置
最古というだけでなく、有名なのは境内には6,840体もの仏像が安置されていることです。回廊に約4,000体、そして本堂には2,000体ほどの仏像があるのですが、残念ながら本堂の撮影は厳しく禁止されていました。
回廊には様々な色と大きさの仏像がずらりと並び、とても見ごたえがあります。中には崩壊された仏像もあるのですが、これは戦時中に壊されたものです。仏像の目には宝石が使われていたり、体内にも財宝が埋まっていたりしたことから、その略奪のためにこんな痛々しい姿になってしまったのです。
そして仏像の背後の壁には釣鐘型の穴が無数にあり、そこには小さな仏像が二体ずつ納められているのが、とてもかわいらしく見えました。
幾つかの墓碑は、おそらく王族のものがと思われます。それは尖塔も含めると5mほどの高さもあり、一基ごとに広い敷地に建てられています。本堂は古い様式ですが、墓碑は近代の様式なのか、細かい彫刻に覆われ、小さなお城のようです。中には遺影が祀ってあり、そこにはスーツを着たご夫婦の姿が映っていました。これは日本にはないめずらしいお墓のスタイルです。
国の象徴で幻想的な絵を描く男性
木陰で黙々と絵を描いている男性にお話しを聞いてみました。
いつもここで絵を描いているのですか?
「私は50年間学校で美術を教えていたんだけど、3年前に退職してからは毎日ここで絵を描いてるよ。」
そこにはワット・シーサケットを背景に、長い髪を束ねた美しい母娘が描かれています。母は上半身ほどの長さがある板のような笛を吹き、娘はキューバの太鼓、コンガのような楽器を腰に抱えています。木々の枝には猿、鶏、リスのような小動物が描かれ、とても幻想的な絵でした。
「これは母と娘が踊っている絵だよ。持っているのはラオス古来の楽器、服は伝統衣装。このお寺はラオスいちばん古く、この国の象徴だからね。このお寺と合わせると素敵な絵が描けるんだよ。」