中国移民の祈りの場所として、同郷出身者の集会所として建立。
フォーのお店をオープンするというご夫婦の開眼供養を拝見させていただきました。
華人の祈りの場所として建立
ベトナム最大の都市ホーチミンにチョロン地区と呼ばれるチャイナタウンがあります。日本だったら横浜や神戸のようなエリアです。18世紀の後半、多くの中国の人々がこのエリアに移住してきました。この華人によって建てられたのが、ここ“王爺寺(オンボン寺)”です。オンボンとは“この地の守り神”を意味し、華人の人々の祈りの場所となったのです。
そして、このお寺のもう一つの名前が“二府會舘”。これは福建省にある泉州市と漳州市の出身者の同郷会館を意味します。お寺であり、二つの市の出身者の集会所も兼ねていたのです。そして、ここは今でも華人の方々に開放されていて、この日もご年配の女性が座り込んでくつろいでいました。
色とりどりで手首ほどの太いお線香からは、雲のように大量の煙が上がってます。また天井からぶら下がっている渦巻き型のお線香は三角の塔の形から、塔香(とうこう)と言うのですが、中には一ヶ月も燃え続けるものもあり、燃え尽きた時に願いが叶うそうです。
福建省特有の曲線がかった瓦の屋根、参拝前に体を清める大きな常香炉、いたるところに漢字が刻まれていて、ベトナムにいるのを忘れてしまうくらい中国一色のお寺です。
日本でもおなじみの西遊記の絵画
そして日本人が喜ぶのはこの絵画でしょう。おなじみの西遊記が描かれているのです。馬に乗る玄奘三蔵(三蔵法師)はインドからたくさんの経典や仏像を持ってきた中国唐代の僧侶。この旅にお供しているのが、猿の孫悟空、豚の猪八戒、そして沙悟浄は日本では河童ですが、ここでは沙悟浄は人間として描かれています。
玄奘三蔵は日本でも奈良の薬師寺にも祀られていて、中国や台湾のお寺にもよくあるのですが、こうしてお供まで描かれたたくさんの絵画があるお寺は珍しいです。
西遊記を掲げるお堂には、孫悟空が大きなおにぎりを持つ絵、勇ましく如意棒を構える絵があり、そしてガラスの厨子には孫悟空だけが祀られていました。孫悟空は道教の神であり、天宮でも騒動の絶えないやんちゃ者、愛嬌あるキャラクターは多くの仏教国で愛されているのでしょう。
お店をオープンするご夫婦の開眼供養
元々は華人の祈りと集会所としてのお寺でしたが、今では厄除けや商売繁盛のご利益もあるようです。長いお線香を掲げて真剣にお参りをしていたご夫婦にお話を聞いてみました。
「私たちは今日からフォー(ベトナムの麺)のお店をオープンするのです。そこに新しい神棚を祀るので神様を持ってきました。この神様は私たちのお店から災いを払ってくれて、お客さんをたくさんを招いてくれる幸運の神様なのです。」
二人は厳重な木箱に、大きなお腹の神様と長いひげを蓄えた神様、それと龍の絵画を持ってきていました。そしてその二人の神様の目や手足、龍にも同様にお寺の職員が、サッ、サッ、サーッと、朱色を塗っていくのです。朱色は生命を意味し、神と龍が目を覚ますと説明してくれました。日本のお寺だったら開眼供養のようなものでしょう。