日本百観音とは – 西国・坂東・秩父の観音巡礼

那智山 青岸渡寺と那智の滝
那智山 青岸渡寺と那智の滝

日本百観音(にほんひゃくかんのん)とは、西国三十三所・坂東三十三所・秩父三十四所を合わせた100カ所の観音霊場のことをいいます。なお、百観音の結願寺(巡礼の最後の寺)は秩父の第三十四番「水潜寺」とされ、巡礼者はすべての札所を巡拝した後、善光寺(長野県長野市)と北向観音(長野県上田市)にお礼参りをすることが習わしとされています。

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西国三十三所(西国三十三観音)

西国三十三所(さいごくさんじゅうさんしょ)は、京都府・滋賀県・大阪府・奈良県・兵庫県・和歌山県・岐阜県に点在する33カ所の観音霊場のことで、順を追ってそれら霊場を参詣することを「西国三十三所観音霊場巡礼」といいます。
熊野那智の青岸渡寺を第一番とし、京都・奈良の古寺をはじめとする近畿地方一円を巡って、岐阜県谷汲の山中にある華厳寺(第三十三番)までの長い巡礼行ですが、日本で最も歴史がある巡礼行であり、多くの参拝者が訪れています。

番付寺院名宗派所在地
第一番那智山 青岸渡寺(那智山寺)天台宗和歌山県那智勝浦町
第二番紀三井山 金剛宝寺 護国院(紀三井寺)救世観音宗和歌山県和歌山市
第三番風猛山 粉河寺粉河観音宗和歌山県紀の川市
第四番槇尾山 施福寺(槇尾寺)天台宗大阪府和泉市
第五番紫雲山 葛井寺(藤井寺)真言宗御室派大阪府藤井寺市
第六番壺阪山 南法華寺(壺阪寺)真言宗奈良県高取町
第七番東光山 龍蓋寺(岡寺)真言宗豊山派奈良県明日香村
第八番豊山 長谷寺(初瀬寺)真言宗豊山派奈良県桜井市
第九番興福寺 南円堂法相宗奈良県奈良市
第十番明星山 三室戸寺(御室戸寺)本山修験宗京都府宇治市
第十一番深雪山 醍醐寺(上醍醐・准胝堂)真言宗醍醐派京都府京都市
第十二番岩間山 正法寺(岩間寺)真言宗醍醐派滋賀県大津市
第十三番石光山 石山寺東寺真言宗滋賀県大津市
第十四番長等山 園城寺(三井寺)観音堂天台寺門宗滋賀県大津市
第十五番新那智山 観音寺(今熊野観音寺)真言宗泉涌寺派京都府京都市東山区
第十六番音羽山 清水寺北法相宗京都府京都市東山区
第十七番補陀洛山 六波羅蜜寺真言宗智山派京都府京都市東山区
第十八番紫雲山 頂法寺(六角堂)天台系単立京都府京都市中京区
第十九番霊麀山 行願寺(革堂)天台宗京都府京都市中京区
第二十番西山 善峯寺善峯観音宗京都府京都市西京区
第二十一番菩提山 穴太寺(穴穂寺)天台宗京都府亀岡市
第二十二番補陀洛山 総持寺高野山真言宗大阪府茨木市
第二十三番応頂山 勝尾寺(弥勒寺)高野山真言宗大阪府箕面市
第二十四番紫雲山 中山寺(中山観音)真言宗中山寺派兵庫県宝塚市
第二十五番御嶽山 清水寺(播州清水寺)天台宗兵庫県加東市
第二十六番法華山 一乗寺天台宗兵庫県加西市
第二十七番書寫山 圓教寺天台宗兵庫県姫路市
第二十八番成相山 成相寺真言宗京都府宮津市
第二十九番青葉山 松尾寺真言宗醍醐派京都府舞鶴市
第三十番厳金山 宝厳寺(竹生島宝厳寺)真言宗豊山派滋賀県長浜市
第三十一番姨綺耶山 長命寺単立宗派滋賀県近江八幡市
第三十二番繖山 観音正寺(仏法興隆寺)単立宗派滋賀県近江八幡市
第三十三番谷汲山 華厳寺天台宗岐阜県揖斐川町

坂東三十三所(坂東三十三観音)

坂東三十三所(ばんどうさんじゅうさんしょ)とは、神奈川県・埼玉県・東京都・群馬県・栃木県・茨城県・千葉県にある33カ所の観音霊場のことです。関東地方一円に広がるこの観音巡礼は、鎌倉時代に源頼朝によって発願され、源実朝が西国三十三所を模して札所を制定したと伝えられています。

番付寺院名宗派所在地
第一番大蔵山 杉本寺(杉本観音)天台宗神奈川県鎌倉市
第二番海雲山 岩殿寺(岩殿観音)曹洞宗神奈川県逗子市
第三番祇園山 安養院(田代観音)浄土宗神奈川県鎌倉市
第四番海光山 長谷寺(長谷観音)浄土宗系単立神奈川県鎌倉市
第五番飯泉山 勝福寺(飯泉観音)真言宗東寺派神奈川県小田原市
第六番飯上山 長谷寺(飯山観音)高野山真言宗神奈川県厚木市
第七番金目山 光明寺(金目観音)天台宗神奈川県平塚市
第八番妙法山 星谷寺(星の谷観音)真言宗大覚寺派神奈川県座間市
第九番都幾山 慈光寺天台宗埼玉県ときがわ町
第十番巌殿山 正法寺(巌殿観音)真言宗智山派埼玉県東松山市
第十一番岩殿山 安楽寺(吉見観音)真言宗智山派埼玉県吉見町
第十二番華林山 慈恩寺(慈恩寺観音)天台宗埼玉県さいたま市岩槻区
第十三番金龍山 浅草寺(浅草観音)聖観音宗東京都台東区
第十四番瑞応山 弘明寺(弘明寺観音)高野山真言宗神奈川県横浜市南区
第十五番白岩山 長谷寺(白岩観音)金峯山修験本宗群馬県高崎市
第十六番五徳山 水澤寺(水澤観音)天台宗群馬県渋川市
第十七番出流山 満願寺(出流観音)真言宗智山派栃木県栃木市
第十八番日光山 中禅寺(立木観音)天台宗栃木県日光市
第十九番天開山 大谷寺(大谷観音)天台宗栃木県宇都宮市
第二十番獨鈷山 西明寺(益子観音)真言宗豊山派栃木県益子町
第二十一番八溝山 日輪寺(八溝山観音)天台宗茨城県大子町
第二十二番妙福山 佐竹寺(北向観音)真言宗豊山派茨城県常陸太田市
第二十三番佐白山 正福寺(佐白観音)真言宗系単立茨城県笠間市
第二十四番雨引山 楽法寺(雨引観音)真言宗豊山派茨城県桜川市
第二十五番筑波山 大御堂(大御堂観音)真言宗豊山派茨城県つくば市
第二十六番南明山 清瀧寺(清瀧観音)真言宗豊山派茨城県土浦市
第二十七番飯沼山 圓福寺(飯沼観音)真言宗千葉県銚子市
第二十八番滑河山 龍正院(滑河観音)天台宗千葉県成田市
第二十九番海上山 千葉寺(千葉寺観音)真言宗豊山派千葉県千葉市中央区
第三十番平野山 高蔵寺(高倉観音)真言宗豊山派千葉県木更津市
第三十一番大悲山 笠森寺(笠森観音)天台宗千葉県長南町
第三十二番音羽山 清水寺(清水観音)天台宗千葉県いすみ市
第三十三番補陀洛山 那古寺(那古観音)真言宗智山派千葉県館山市

秩父三十四所(秩父三十四観音)

秩父三十四所(ちちぶさんじゅうよんしょ)とは、埼玉県秩父地方にある34カ所の観音霊場のことをいいます。熊野那智の青岸渡寺から始まる百観音の巡礼は、西国・坂東・秩父を経て、秩父第三十四番の水潜寺で結願します。

番付寺院名宗派所在地
第一番誦経山 四萬部寺曹洞宗埼玉県秩父市
第二番大棚山 真福寺曹洞宗埼玉県秩父市
第三番岩本山 常泉寺曹洞宗埼玉県秩父市
第四番高谷山 金昌寺曹洞宗埼玉県秩父市
第五番小川山 語歌堂臨済宗南禅寺派埼玉県横瀬町
第六番向陽山 卜雲寺曹洞宗埼玉県横瀬町
第七番青苔山 法長寺曹洞宗埼玉県横瀬町
第八番清泰山 西善寺臨済宗南禅寺派埼玉県横瀬町
第九番明星山 明智寺臨済宗南禅寺派埼玉県横瀬町
第十番萬松山 大慈寺曹洞宗埼玉県横瀬町
第十一番南石山 常楽寺曹洞宗埼玉県秩父市
第十二番仏道山 野坂寺臨済宗南禅寺派埼玉県秩父市
第十三番旗下山 慈眼寺曹洞宗埼玉県秩父市
第十四番長岳山 今宮坊(秩父今宮神社)臨済宗南禅寺派埼玉県秩父市
第十五番母巣山 少林寺臨済宗建長寺派埼玉県秩父市
第十六番無量山 西光寺真言宗豊山派埼玉県秩父市
第十七番実正山 定林寺曹洞宗埼玉県秩父市
第十八番白道山 神門寺曹洞宗埼玉県秩父市
第十九番飛渕山 龍石寺曹洞宗埼玉県秩父市
第二十番法王山 岩之上堂臨済宗南禅寺派埼玉県秩父市
第二十一番要光山 観音寺真言宗豊山派埼玉県秩父市
第二十二番華台山 童子堂真言宗豊山派埼玉県秩父市
第二十三番松風山 音楽寺臨済宗南禅寺派埼玉県秩父市
第二十四番光智山 法泉寺曹洞宗埼玉県秩父市
第二十五番岩谷山 久昌寺臨済宗南禅寺派埼玉県秩父市
第二十六番萬松山 圓融寺臨済宗建長寺派埼玉県秩父市
第二十七番龍河山 大渕寺曹洞宗埼玉県秩父市
第二十八番石龍山 橋立堂曹洞宗埼玉県秩父市
第二十九番笹戸山 長泉院曹洞宗埼玉県秩父市
第三十番瑞龍山 法雲寺臨済宗建長寺派埼玉県秩父市
第三十一番鷲窟山 観音院曹洞宗埼玉県小鹿野町
第三十二番般若山 法性寺曹洞宗埼玉県小鹿野町
第三十三番延命山 菊水寺曹洞宗埼玉県秩父市
第三十四番日沢山 水潜寺曹洞宗埼玉県皆野町

観音巡礼とは

古くはインドにおいて、修行僧がお釈迦様に縁のある聖地(霊場)を巡ったのが発祥とされています。日本では、平安時代より観音信仰が盛んになり、修行僧が観音霊場を巡るようになりました。江戸時代になると一般庶民の間にも広まっていきました。
そして巡礼という名目ならば往来の自由が許されてさまざまな場所へ旅行ができたことから、巡礼から現代の観光旅行にもつながっているといえます。

観音巡礼では、観音様(観音菩薩)を本尊とする寺院を巡礼します。全国を見渡せば観音巡礼には数百のコースがあるのですが、その代表的なものが上記で紹介した西国三十三所・坂東三十三所・秩父三十四所です。最も歴史が古いのは西国三十三所で、それに倣って作られたのが坂東三十三所、その後、庶民によって賑わったのが秩父三十三所となり、西国33カ寺、坂東33カ寺、秩父34カ寺をすべて巡ることを「百観音巡り」といいます。
また、観音札所の巡拝を結願(すべての寺院を巡り、最後の寺院に参拝すること)したら、その御礼として信州の善光寺(長野県長野市)と北向観音(長野県上田市)を参拝することが習わしとなっています。

天台宗別格本山 北向観音本坊 常楽寺

観音巡礼で寺院を巡る順序に決まりはなく、札所(霊場寺院のこと)の番付に関わらず参拝したいところから自由に巡ることができます。なお、第一番から順に巡ることを「順打ち」、第三十三番から逆に巡ることを「逆打ち」といいます。

御納経/巡礼の流れ

各札所でご本尊にお経(写経または読経)を奉納後、納経帳に墨書と御宝印(御朱印)をもらうことを御納経といいます。現在ではそれが簡略化されて、お経を納めなくても参詣の証として御宝印(御朱印)をもらうことで御納経とすることも多いようです。

  1. 三門(山門)前で合掌礼拝してから霊場に入る。水屋で口をすすぎ、手を洗う。
  2. 鐘楼で鐘を打つ。
    ※自由に打てる場合のみ。参拝後は「戻り鐘」になるので絶対に打たないこと
  3. 本堂向拝(入口)で所定の箱に納札し、お灯明、線香、賽銭をあげる。
  4. ご本尊を念じ、合掌し読経する。
    ※般若心経、法華経(観音経)、十句観音経、本尊名号、回向文など
  5. 納経所で所定の納経料を納め、納経帳、納経軸、笈摺(おいずる)などに御宝印(御朱印)をもらう。
    ※手書き墨書をいただく場合はお参りの前に納経所に預けるとよい
  6. 帰る際にも三門(山門)前で合掌礼拝する。

巡礼の服装

ここでは巡礼の基本的な装備をご紹介します。すべて揃えなければならないといった決まりはなく、最近では洋服の上に白衣・輪袈裟を付け、数珠と納経帳のみ持参といった軽装の巡礼者も多いようです。

  • 白衣(びゃくえ)
    巡礼の正装。普段着に白衣を羽織るのが定番となっています。
  • 菅笠(すげがさ)
    日除け・雨具にもなります。菅笠はかぶったまま参詣することができます。
  • 輪袈裟(わげさ)
    僧侶の法衣を簡素化した巡礼の正装具。白衣の上に首から下げ、手洗いなど不浄のところでは取り外します。
  • 納経帳(のうきょうちょう)
    札所での参詣、読経を終えてから御宝印(御朱印)をいただく冊子。納経帳はそれ自体がお守りとなります。一度購入したらその納経帳を一生使用し重ね印していきます。
  • 数珠・念珠(じゅず、ねんじゅ)
    数珠を持って仏様に手を合わせることで、煩悩が消滅し、功徳を得られるといわれます。
  • 経本(きょうほん)
    各札所のご本尊にお経を奉納するためのものです。
  • 頭陀袋(ずだぶくろ)
    納経帳や納め札、ロウソク、線香など、巡礼でよく使うものを入れます。