象の体内は美しいステンドグラスに包まれた幻想的な世界。歴史的にも宗教的にも象は特別な存在であることを、タイの人々が教えてくれました。
街を見下ろす43mの超巨大な象
タイの首都バンコクに隣接するサムットプラカーン県にあるエラワン・ミュージアム。隣の県とは言え、バンコクの中心部からBTS(高架鉄道)で、チャーンエラワン駅で下車し徒歩10分ほどですから、半日あれば十分に行ける距離です。
ここは2003年に完成したまだ新しい施設ですが、今は撮影スポットとしても世界中の女性が訪れるほどの人気となっています。
まず驚かされるのが、BTSからの眺めです。都心のビル群や高速道路を背景に、どの建物よりも高い、異常なほど巨大な象の姿。その頭は三方向を見下ろし、長い鼻を振り回して街を襲っているかのようです。
この三つ頭の象は台座と合わせると約43mの高さ、これは10階建てのマンションの高さに匹敵しますから、怪獣映画さながらのこの光景に誰もが目を奪われてしまうことでしょう。
もちろん実際にはこの象は怪獣ではありません。エラワンと呼ばれるインド神話に登場する象のことで、インドラという神様の乗り物です。
象の体内は美しい幻想的な世界
巨大な象の台座はドームになっていて、その中は外観からは想像できないほどの美しさ。正面のヨーロッパのお城のような大きな階段から、ピンクと白を基調にした世界が縦横に広がります。
創設者のレック・ウィリヤパン氏は自分自身の美術品のコレクションと共に、タイの美術・芸術の保護と展示。仏教、ヒンドゥー教、キリスト教までを融合させて宇宙の姿を表したのです。
台座の下階に位置するのは地獄界、上階は須弥山という仏教世界の中心にそびえ立つ山。そして象の内部、ステンドグラスの美しさが際立つ位置が天上界です。
下から眺めるだけでなく、実際に階段を上ることができるのも人気の理由です。
階段の両脇では弦楽器と弦楽器を持った男性の姿、中心で体をくねらせた菩薩像は妖艶に歌っているかのように見えました。
最上階には本堂と呼ばれる空間があり、ここだけはブルーが広がる、他とは空気が異なる空間が演出されています。
薄暗い照明の中で浮かび上がる仏様はまさに、天上界にいるかのような幻想的な世界です。
園内は巨大象を中心に、いくつかの庭があり、そこは木々や石、滝、池があり、きれいに手入れされた日本庭園のようでした。
また外周には何頭もの象のモニュメントが並んでいて、そこを通ると「パオーン!パオーン!」という大きな鳴き声が流れます。これは子どもを連れて行ったら大喜びするでしょう。
象は王の象徴であり、ブッダの化身
ここは名前の通り、博物館に分類されますが、それでも正門手前には大きな礼拝場所があります。
そこにはこの巨象のミニチュア版が祀られ、途切れることなくタイの人々がお参りに訪れているのです。
タイの人々は何故これほどまでに象を崇拝するのでしょう?
象は戦時中であれば王様を乗せて戦う、国で最も強い勇者の象徴でした。また古来から王室には白象が献上され、その所有する数が功績や人徳に比例したのです。
さらに宗教的には、ブッダの母親は白い象がお腹に入ってくる夢を見た時に、ブッダを身ごもったというお話しもあり、象はブッダの化身でもあるのです。
こうして、タイ人にとって象は、歴史的にも宗教的にも特別な存在となっているのです。